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概要

塩川伊一郎評伝

経済恐慌、さらには第二次大戦の影響を受け、火山灰土を豊かな果樹園に変え、さらに果実の加工産業へと発展させたその輝かしい歴史も幕を閉じることになる。勝太らが新しい缶詰会社を作るといっても、機械や原料をそろえる資本が充分ではなかった。伊一郎一家は一大決心をして先祖伝来の田地三反歩(九○ ○ 坪凵約三千平方メートル)を売却し、五〇○ 円程の資本を得て、機械と原料のブリキを買い入れた。いよいよ缶詰の製造にかかろうとした時に、だいじな砂糖を買い入れる金がなくなっていた。勝太は小諸町の問屋に行き、窮状を打ち明けて砂糖七〇俵(時価七〇円ばかり) の借用を頼んだ。しかし、「缶詰も現金で買い取るから、砂糖も現金でなくては売れない」とことわられてしまった。当然の新聞に掲載した広告こととはいいながら、自分の信用のなさに情なくなって帰ろうとした。しかし、このまま砂糖の工面をつけないまま帰るとは、先祖伝来の土地とようやく整えた設備を無効にすることになってしまう。世の中の無情になげきながら、進退きわまって小諸の街中をさまよっているうちに、「鬼の挙にも当ってみよ」とのことわざを思いおこし、勝太は勇気を