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概要

塩川伊一郎評伝

「トウキョウニハモモガナイ、スグオクレ」心配している熊二と七人のもとへ、うれしい電報がとどいた。東京はもちろん、横浜へも桃はどんどん送られ、一個五銭もの値がついた。前途有望と喜び合いながら生桃を送り出した。ところが、東京の商人はそんなにあまくはなかった。最初のうちは高値に買い取ったものの、荷の数が多くなるにつれて「くさっているものが多い」と言うようになり、値を下げようとした。熟した桃は傷がつきやすく、傷からくされが広がりやすいのが桃の欠点である。当時の荷物輸送の方法や到着時間からすると、傷ついた桃があったにちがいない。東京の商人の作戦にかかってしまったことも事実であろう。後の手紙の中に「姦商」という言葉で、この時の悔しさを示している。「いい桃をつくり出したい」と、木村先生の指導のもと、熱心に研究し努力はしてきたものの、商売のかけひきまでは知恵がまわらなかったのである。それに桃のくされを防ぐ方法も知らなかったのである。