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概要

塩川伊一郎評伝

もともと農家の主婦たちに布を織らせる産地では、問屋が中心になって原料を集め、主婦たちに手間賃を与えて糸につむがせたり、織らせるというのがどこでも行なわれている方式なので、原料を買って自分の力で布を織って売ることはほとんどなかった。そこで勝太は、持って行った真綿を貸して、この次に来る時までに織り上げてもらい、代金を支払う約束をして帰った。第一三回目の大島行きはその年(明治三十二年) の秋九月六日に出発した。小諸から福島県へ行き、郡山、福島、日光と真綿を買い集め、東京から汽車で米原へ、そして大阪へ出た。大阪から隅田丸で六泊しながら鹿児島へ、再び隅田丸で大島へ着いた。彼のノートには、二十八日上陸、大島三三泊とあり、続いて、静心全局ニ注意セヨ品質ノ上下ヲ監別セヨ価格ノ高低ヲ認メヨ坪量ノ強弱ヲ熟視セヨ値切ルコト。量ヲ強クスルコト。良品ヲ撰スルコトと一ぺ― ジに書き、自ら新しい事業に対する戒めとした。