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概要

塩川伊一郎評伝

ふるさと二歩き続けて故郷へさらに日記をたどってみよう。大阪へ入った勝太は、ここでも真綿の相場をたずね、絹糸紡績に大きな関心をよせている。にぎやかな道頓堀で飯と魚を食べた。二日も食べていなかったのでおいしかったが、ふところのお金が乏しくなってきていた。旅篭へ泊ると二五銭、片旅篭で一五銭を出すことさえ倹約して、夜おそくまで町中を見物して歩いた。夜中の材木のかげは暗くてこわく、公園のベンチは野露にさらされるし、神社は縁日で参詣人が絶えないので、眠るのに良い場所がみつからない。心斉橋を出た所に露店があったので、縁台を引出して風を防ぐようにおおってひざを曲げるようにして横になったが敷物がなくて、眠ることができなかった。月は皓々と天心にすみわたり、はかまとシャツと羽織のみではとても寒く、特に夜半から明け方にかけては寒さが加わって苦しさにたえきれず、五時に起きて歩き出した。ふところの軽さや空腹にもめげずに活動を開始した。二十七日も天気が良く、工場の煙突が各地に立って、製造業の盛んなことがわかった。学校・気象