ブックタイトル塩川伊一郎評伝
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塩川伊一郎評伝
夢を勝太に起こさせることになった。それは大島紬であった。小さいノートの旅行記には二月二十三日からの分が残されている。原文のまま紹介すると次のようである。明治丗二年二月廿一三日鹿児島ニテまわたそうば(百匁)(二円) (一円) しまいと天晴朝各店ニ至リテ真綿ノ相場ヲ問フ最優等百目弐円ヨリ下リテ壱円六十銭マデ。島糸ハアル家ほとん(樋格)殆トナシ口ハ一戸アリシノミ價四円八十銭ナリ長町田町冷水入口百六十五番戸指宿修后氏ノ紬製造ヲ問フ。製造場ハ大ナラズ場内女工数弐十人ナリ水車ヲ使用シテ車輪ヲ回転セシメ回力ヲ傳ヘテツムヲ回転セシムルナリツムハ繰リシ紬糸ヲ巻クノ用ヲナス真綿掛盤ハ竹釘ヲ植へ其ノ釘ニ真綿ヲ掛ケ工女適宜ニ細大ナカラシムル様ニ糸ニ注意スルナリ然ルトキハ車力ニテ糸ハ引カレテ前頭ノ針金ニ掛リテ二ツノ丸キ棒ノ間ヲ通シテツムニ至ルナリ棒ノ下ニ水鉢ヲ置キテ棒ニ巻キタぬれ(浬巴) つたえぬれかすル布ハ濡テ其濕ヲ細糸ニ傳テ濡サシムルナリツム巻カルルマデニツムハ非常ノ回転ヲナシテ綛リヲ送リテヨリ掛ルナリツムヨリツカニ移シテ茲ニカトナルナリ此ノ製紬ハ百目三円三十五銭ニテ賣却スト云フマ綿ハ江州ヨリ仕入ルコトナルガ壱円六十銭ヨリ八十銭マデナリト云フ此ノ器械ニテハ一人ニ十目ツヽ製スト云フ優等工賃ハ十八銭自食ナリト云フ。」(後略)このあと城山へ登って西郷隆盛自刃の地を尋ねた後、船に帰って泊っている。