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概要

塩川伊一郎評伝

一台湾― 琉球・奄美大島へ「桃・栗三年、柿八年」ということわざが、古くから言われている。「桃と栗は植えてから三年で実をつけるが、柿は八年たたなければならないよ」ということで、桃は植えてから早く実をつける樹木の代表であった。桃の樹は育っているが、三年間は収入にはならない。株間へじゃが芋や百合を植えつけたがそれはわずかな収入にしかならない。はじめから資金のとぼしい中ではじめた事業であり、その上、木村熊二から一〇円を貸りたとはいうものの、それは苗を買うことによって費し、伊一郎父子をはじめ、同志たちの家計の苦しさは変わることがなかった。春から夏にかけては桃づくりに没頭しているのでほかのことを考える余裕はなかったものの、秋も深まり冬が近くなると、仕事のあい間に暇が生まれてきた。折から日清戦争が終って日本は台湾を領有し、日本の手によって行なわれる開拓が有望であるという話を耳にした。勝太の夢は広がった。台湾視察を行なって道を拓こうと考えた。塩川家に表紙が布製の小さな一冊のノートが残されている。そこには、勝太の台湾旅行と二回にわた