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概要

塩川伊一郎評伝

排水の良い火山灰土と乾燥した気候は、杏につぎ木した桃苗の成長をおくらせることを知った伊一郎はヽ欧米の栽培法や川崎地方の栽培方法を参考にしながら、一三岡の風土に適した桃づくりにとりかかった。当時の桃といえば「天津水蜜桃」や「上海水蜜桃」など、中国種系が中心であったが、西洋種も東京や埼玉県では販売されはじめていた。伊一郎父子は北足立郡土塚村の苗木商中田与右衛門から買い入れた苗でヽ本格的な桃栽培に取り組むことになった。三岡村の火山灰土や湿度の低い気候に合った種類はどれか、りんごの時にやられてしまった病気や虫の害にはどのように対処したらいいのかヽ春の寒さや霜の害に強いのはどの種類かなどの研究もおこたらなかった。桃苗の成長を観察しているうちに、杏の台木につぎ木した桃は、樹の枝の成長がおそく、枝は上にのびないで横にはっていくことがわかった。それに早く大きな実をつけるが、樹勢が弱いために数年にして実のつき方が悪くなり、病害や霜にもおかされやすいという大きな欠点を持っていることがわかった。それ以後台木には野生桃を使うことによって、樹勢が旺盛で発育が良く、三岡の風土に適した苗をつくり出すことにつとめた。とは言っても、近くの山野にそんなにたくさんの野生桃が生えているわけではない。そこで伊一郎は台木の育成に取りかかった。九月に熟した野生桃の実を採集し、肉付きのままあらかじめ深さ一尺ぐらいに掘った土中に埋め、上から五寸ほど土を盛りかけてそのままにしておき、十二月頃になって二?一三回水をかけて冬の寒さにあわせるという方法をとった。すると果肉の部分がくさって、核がしぜんにとれていく。四月になって掘り出してみると半数以上は核がわれている。われていな