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概要

塩川伊一郎評伝

瘠土の浅問山麓を切り開いて桃園がつくられた(大正初め頃たわけではなかった。一人一○ 円つつ出し合って資金にしようとしたが、家計にそんな余裕があろうはずはない。若者たちの当惑した顔色を見てとった木村が、ポケットマネ― から一〇円を出そうと話しかけた。この一言によって八人はどんなに勇気づけられたことであろう。当時の一○ 円を今の金額に換算することはむずかしいが、木村が小諸の耳取で借りていた家の一か月の家賃が一三円(『熊二日記』明治二十六年四月十七日) であったから、およそ三か月分と考えれば桃の苗木を買うお金としては充分であり、彼らの心に火をつけ希望をふくらませていったにちがいない。そこで若者たちは元気百倍、稲作りや桑の手入れが始まる前に畑づくりに取りかかる手だてを考えた。その日の夕方、熊二は伊一郎宅に立ち寄り、そばをごちそうになって小諸へ帰っている。佐久地方では、正月やお祝いごとがあれば、熟練したおばあさんがそばを打って、山鳥か兎の肉で味出しをした汁で、そば