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概要

塩川伊一郎評伝

面洋桃事業の成効斯くの如くなるに、他面に於ては、明治三十三年の比より栽植せし莓の生育も、亦隆々たる運命を招き、其の栽培地亦六町歩以上に上れりと言ふ。此に於て文学界に失望せし君は、園芸界に大得意の境遇を開き、遂に佐久の園芸王を以て目せらるゝに至れり。鳴呼、亦偉なる哉。特に君の事蹟中、茲に大筆すべきは、金属製皮〓器械と核抜器械との発明に継ぎて、鷹形鳥威、塩川式殺峨燈の発明新案是れなり。是れより先き、君收獲の洋桃を箱詰として盛に之を各地に販売せしが、動もすれば腐敗の虞なきにあらず。此に於て百方苦心の後、之を缶詰と爲さんと欲し、更に幾多の資本を投じて、之が實行に着手せしに、之が皮〓き、核抜き等に許多の人力を費し、尠からぬ費用を要せしを以て、工夫惨憺遂に皮〓器械とを発明して、明治三十八年某月之が専売特許を得たり。更に又君をして新案工夫を要せしめ一事あり、害鳥と害虫と是れなり。此に於て、沈吟苦思幾多の實験を積み、遂に鷹形鳥威、塩川式殺峨燈の二器を発明し、これ亦専売特許乃至實用新案登録を得たり。此等二器の如きは、単に園芸上に効力あるのみならず、一般農芸上にも大効あるを以て、名声嘖々、需用日を追ひて盛なりと言ふ。固より此等の発明の如きは、事業上實際の困難若しくば障碍の爲めに促されたる結果なるべしと雖も、而も君の卓絶なる識見と優秀なる忍耐力とに待つにあらざれば得て此に至るべからざるなり。今や其の事業益々盛に、販路亦愈々擴まり、現に缶詰のみにても、洋桃二十万餘個、苺十餘万個の多額に上ると言ふ。殊に宮内省の恩命を辱うするのみならず、閑院宮殿下の珍膳にも上る光榮を有するに至りては、園芸家の面目何物か之に尚へん。宜なる哉、明治四十一年九月、我が長野県主催の一府十縣