ブックタイトル塩川伊一郎評伝
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塩川伊一郎評伝
を知る得るや再び園芸に向って自ら其の運命を開拓するに決意し、即ち復苗木を東京に取り、地を選びて之を試植せり。時恰も明治二十七・八年の戦役、始めて其の局を結び、彼の台湾島の我が版図に入り、而して其の開拓事業の頗る有望なりと聞くや、君の壮心又働き、轉た鵬翼図南の感に堪へず。明治二十九年某月、絶大の新希望を斉して、同島視察の長途に上れり。而も之れ亦失敗の悲運に畢れり。他なし見る所は聞く所と異り、安全に事に従ふべき熟蕃の地は、開拓既に普くして、復新に鋤犂の入るべき寸地をも見る能はざりしを以てなり。即ち琉球諸島を視察して、将に帰国せんとするに当り、端なくも又一新事業を発見するを得たり。何ぞや大島々民の紬製造に従事するを目撃して、思へらく、我が信州は由来眞綿の産出に富む、故に我が信州にて之を織り出さんには、益する所尠からざるべしとの事是れなり。而もこは最後の目的として、先ず之が原料たる眞綿を彼等島民に売捌し、而して徐に其の製造の調査を逐げんと、前後二回、親ら眞綿を斉して同島に赴きしも、収支相償はず、これ亦絶望の己むなきに終れり。時に往年試植の洋桃、生育極めて善美にして、結実亦聯珠の如し。試みに其の数顆を取りて之を喫するに、甘漿美味、殆と言ふべからず。此に於て、父子始めて愁眉を解き相約して益々培植を盛にせんことを盟へり。爾来君父を助けて鋤犂を執り、且つ栽え、且つ培ひ、且つ盛に苗木を作り、無代を以て希望者に頒ち、其の植栽を獎励せしを以て、今日君の居村三岡を中心として、南北大井村等にも、美しき桃園を見るに至り、遂に北佐久全部に行はるゝに至れり。乃ち最近の調査に依るに、北佐久全部の桃園は、二百町歩以上に上り、而して君の所有は、實に六町歩以上に居ると言う。亦盛なりと謂ふべし。一