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概要

塩川伊一郎評伝

本郷町にあった「原洋義塾」に入門、数学と英語を学んだ。これからの世の中では、外国の新しい知識や技術を取り入れていかなければならないと考えたからであった。塾の先生や友だちの感化もあって勝太は文明開化の世界へ興味を持ちはじめていた。しかし、残念なことにこの遊学は長くは続かなかった。家を出る時の「学若無成死不還」との志に反してヽ勝太は帰郷せざるを得なくなった。彼が東京で見たもの知ったものは、日本の文明開化そのものであった。佐久のきびしい寒さ、肌をさすようなつめたい風は関東にはなく、冬でも緑がいっぱいであった。汽車が走り、電信がとび、人々が忙しく行きかう様は、勝太が夢に見た西洋の風景そのものであった。勝太は帰郷に際して『舶来蔬菜果樹栽培便覧』という本を買った。果樹やつぎ木の好きな父への土産と自分のこれからの生きる道を胸に秘めた買物といった方が正しいかも知れない。この一冊が伊一郎父子を園芸への道へさそう契機となり、運命をかえることになろうとは、勝太にとって知る由もなかった。