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概要

塩川伊一郎評伝

して居る浅間の降灰で他の耕作物では一町歩百円か百五十円より得られないのが、こう利益あつて、村民の安楽に暮らされるのも皆塩川氏の恩沢であると喜んで居る、氏は其後苺の栽培を始めたが今ではかなりいゝ成蹟か挙かつて来た。失敗又失敗転々又転々斯くして氏は遂に最後の勝利を得たのである。氏は斯くの如くにして今では数万の富をなして居る、が決して物質本位の自己主義てはない、氏の理想とするは細民救済とでも云ふた様な考へで、富や権力を以て近郷に名を得よふとはして居らぬ、自己が富を得る為め他の村民が迷惑する様では事業でも何んでもないと、此事は常に念頭を離れた事がない、極く近い例が菓樹の栽培に適当な土地を手入れるにしても、若しそれが他人の小作中のものであれば地主に話をせず小作人に相当の報償代価を支払つて間接に小作人から借りると云つた様なやり方で此等はほんの一例にしか過ぎんが万事が下級民本位で経営して居られる、苺ジヤムの製造期などでも短期日に何十万と云ふ数を製出するのであるが、氏の徳を慕て居る村人の力により少の差支もなく製造することを得て居る、兎に角氏は当今には一寸珍らしき人格を備へた人である物質上の成功は第二として事業其物に趣味を持ち自分の郷里が富めばそれで満足して居る、富の度から云へば必すしも大成功とは言へぬ、けれども斯くの如き荒廃に近き土地をして斯くも有利なる事業を創設せしは大なる成功と云はねばならぬ。