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概要

塩川伊一郎評伝

栽培に奏功するや、彼に倣ふ者続出し、氏亦大に勧奨したる結果、生産遽に増して需給の均勢を失ひ消費力の大なる京浜地方に於てすら、尚之が中正を得ずして保存期の永からざる桃果は、腐蝕に次ぐに腐蝕を以てし、又如何とするに、由なし、洋桃缶詰の事業是に因て企画せられ、当時東京市洋酒缶詰組合長にして、斯道に造詣深き豊田吉三郎氏を招聘し、洋桃缶詰製造の傍ら技手の養成を委託せり然も数度の失敗に依りて財産を蕩尽したる塩川氏は企業の資金に欠乏を訴へしを以て、東奔西走有志者を説き、資金の醵出を勧めて、缶詰製造会社は茲に創設されぬ然りと雖も桃果の産出歳毎に多きを加へて、到底一製造所の能く之を製了し得べきに非ず桃果腐敗して栽培業者の損害多大なるを見るや、氏は奮然として起ち、独力経営の下に缶詰製造所を設くるに至れり。洋桃缶詰の一たび世に出づるや忽ち嘖々たる好評を博して需要荐に臻り、供給之に伴はざるの盛況を呈す、今や年々十万に埀んとするの缶詰を製出し、全国到る処の店頭、彼れの商標を貼付せる洋桃缶詰を見ざるなし、噫流離困頓、幾度か倒れて而して復た起き、遂に能く其志を大成したる氏が、胸中の感慨果して如何。▲ジヤム製造と名誉表彰氏が園芸事業の一半は吾人、既に説き去れり、更に進で他の半面の事業たる苺栽培について聊か述ぶる所あらしめよ、明治三十三年の頃、氏は洋桃栽培に全力を傾注するの時に於て、果樹の栽培が頗る有望