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概要

塩川伊一郎評伝

及び西洋菓子製造原料としての需用亦多し、最後には木イチゴを紹介せんに、黒色木イチゴ、赤色木イチゴ、最優等赤色木イチゴ、最優等赤字ローガンベリーの三種あり。最近舶来の小果実にして其の質最も強健、地質、気候の如何に関せず能く結実し、収穫最も多し、一房十粒以上密着して大房を為す。其の味は甘酸適度にして核に香気あり。果樹園の周囲に植ゆる時は、僅か一年にして堅固なる生籬となり、一挙両得なり。要するにイチゴの栽培は米を作るより其の利益大なるを以て、同地にては水田を潰してイチゴ畑となしたるもの少なからず。氏の如き八十坪の地より収穫するもの六十貫、此の代金十八円に當る。然も籾を造る時は十円に過ぎずと言へり。イチゴ栽培の盛んなるに至れるもの、亦以ありと謂つべし。「失敗は成功を生むの母なり」との格言に適中せる、園芸王塩川伊一郎氏は、今や幾多の辛苦を経て事業益々盛大に赴き、獨り自己に於て洋桃イチゴを栽培するのみならず、両種の園芸をして普及せしめんがため、多くの洋桃苗、多くのイチゴ苗を養成しつつあり。即ち其の栽培方法も亦一般の参考となるもの少なからずと雖も、之を茲に記す時は餘りに長きに失するの嫌ひあるを以て、適当の時期を待って重ねて紹介することゝなして、本篇は此の一回を以て一ト先ず擱筆せんと欲す。然も終りに臨んで尚一つ紹介せざるべからざるものあり(十)