ブックタイトル塩川伊一郎評伝
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塩川伊一郎評伝
土地も蕩尽し挙て冨者の小作人となるに至る伊一郎も時の風潮に漂されて有形の財産ハ消滅し去りしも無形の財産即チ勇気ト耐堪ハ未た全く消除セす彼ハ思ヘリ津田仙君の如き渡瀬寅次郎君の如き果樹栽培によりて成功せし人少からす自己も苹果を栽培して地方の物産を為ば衆人に益を及す余地なきも一家を支ゆる程の収入を得るハ容易の事ならんとこれより苹果栽培の為め百方苦心セリ第一着手として森山村の地価の尤下直なる場所を借り受けて果樹を植付ケ又ハ小縣郡内の内にて鹿教湯の邊に数町の地を開拓して新に果樹園と為し果樹の発生後ハ必す多量の収穫を得へしと企待せりされど彼ハ土地に適する種類を撰□ の暇なく地味の如何を問わず苹果にてあれハ必す結実すへしとて全く成算を誤りたり苹果程害虫の多キモのハ有らず之を防禦するの方法ハ極て多し肥料も十分に注意を要するモのなるに彼ハ其点に怠慢りたれハ数年の後といへとも好成績を挙る能す最後にハ土地の開墾より果樹植付の労働に□ して許多の負債を剰して彼ハ愈々窮境に陥らんとするに至れり失望とか落胆とかいふ言辞ハ彼の手帳にも彼の字引にもあることなし土地も家屋も金銭も名誉も脱セられて無一物なる況遇に安坐して果樹栽培の夢を結ひ居たり一日彼ハ微酔を帯ひて案内もなく紹介もなく我か家に来りて果樹栽培の地方人民の副業とし益ある事を説き聞かせたり彼ハ大工となりて失敗し養蚕家となりて失敗し果樹栽培によりて多大の負債を残し垢面弊衣好んで果樹栽培の益を説くもまた奇ならすや最後に彼ハ余に問ふ言細民今日の状態より救済する道ハなきやと余ハ之に答へて酒を禁し業を勉ミ二宮尊徳翁の術を講せハ稍挽回することを得へしと君ハ呵々大笑言ふ前途の迫りたる老翁か少許の金を貯蓄して何をか為ん其ハ子孫の計を為すに