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概要

塩川伊一郎評伝

一森山村桃樹栽培の経緯について(東京女子大学比較文化研究所所蔵)ミカエルエンジローが求めたる石塊ハ市人の捨る所なれど彼にハ甚だ貴重なる物にてありき河村瑞軒が想像せし江戸市街に遺棄したる黄金ハ人馬の草鞋に過きず所謂勝つ人の用ゐる所のモのハ敗るヽ人の棊にてありき然れども彼等ハこれによりて成功し芳名を千歳に流せしモのハ用意周到の結果に過きず信州北佐久郡の森山村といふハ三岡村の一部落なり村民に塩川伊一郎といふがあり一日我家を訪ふ蓬頭乱髪にて髭鬚を剃らす言笑疎野然れど語る所ハ田舎者の真面目と熱心を顕し農家生計の日に非なる事を慨歎セリ元来この地方の特色ハ貧富の程度の甚しき懸隔を有せざるにより村民ハ各自門地を以て自ら高慢り居たれど互に円慢なる交際を為し来りしも世態人情ハ時と共に推移変化して拜金崇の趣勢ハかヽる僻遠の村落にまで及びて門地何かあらん人物何かあらん冨める者のミ地方の勢力を有する事となりて貧者ハ歯牙の間に置く可きモのならすとまで排斥せらるるに至れりこれ伊一郎の尤も憤慨に堪ざる所なりき当時細民ハ冨豪者より金円を借り受け養蚕に従事するも上簇の上元利を計算して得失相償わさる事数回あり其が為めに失望の結果は飲酒となり博奕となりて終極ハ家屋も